「チサノキ」って、どんな木? これが分かる人は、そこそこ凄い!! 「歌舞伎にも登場するよ」と答えた人は、もっと凄い!! さて、「チサノキ」とは?!
「チサノキ」は「萵苣の木」と書きます。
「萵苣の木」と聞いて、「伽羅先代萩」を連想する人は100人中何人いるでしょうか。
「伽羅先代萩」は、「めいぼくせんだいはぎ」と読みます。人形浄瑠璃、歌舞伎の外題です。外題というのは、上演される演目の題名のことです。
作者は江戸時代中期の歌舞伎作者、奈河亀輔(ながわ・かめすけ)。初演は1777(安永6)年、大坂・中の芝居(道頓堀にあった劇場・中座)で。㊦のちなみ写真は「中の芝居」ではなく東京・歌舞伎座です。
まず、「伽羅」から謎解きします。熱帯アジア原産の常緑高木で、代表的な香木の一つに「沈香(じんこう、ぢんこう)」があります。その「沈香」の中でも特に質が良く、非常に貴重とされたのが「伽羅(きゃら)」です。「伽羅」は"名木"なので、「伽羅」と書いて「めいぼく」と読ませたのでしょう。
そして「先代」は伊達藩の城下町「仙台」。仙台市の市の花は萩。宮城県の県の花は宮城野萩。つまり、奥州の代表的な花です。
この「伽羅先代萩」という外題から連想できるのは「伊達騒動」です。つまり、元ネタは、江戸時代に起きた大名家の「三大御家騒動」の一つ「伊達騒動」というわけです。
物語は、奥州足利家のお家騒動ですが、外題から劇の内容が分かる仕掛けになっています。
元ネタとなっている「伊達騒動」とは…。
仙台藩3代藩主・伊達綱宗が「伽羅」で作った下駄を履いて毎晩のように廓通い。放蕩を理由に幕府から強制的に隠居させられてしまいました。跡を継いだのは、幼い藩主。そこで起きたのが史実の「伊達騒動」。そのお家騒動を描いた作品です。
大変人気がある場面「御殿の場(飯炊き=ままたき=の場)」で、若君を悪者たちの魔の手から守り抜く乳人(めのと:乳母)の政岡(まさおか)に言われて実の息子の千松が御前のご機嫌を取るために「雀の唄」を歌います。
〽こちの裏のちさの木にちさの木に、雀が三疋(ひき)止まって止まって、一羽の雀が云うことにゃ云うことにゃ…
さあ、ようやくたどり着いたというか、出てきましたね、「ちさの木」が…。
「ちさの木」、つまり「萵苣の木」が、場面を彩る花萵として登場しているのです。
「ちさの木」については、「小さい」とも、「チは茎葉を切ると乳汁のようなものがでるところから」(大言海)との説もあるそうです。
ちなみに、「萵苣」の「萵(ワ)」と「苣(キョ、ゴ)」は中国からきた漢字で、「萵」は中国の昔の国名(どこの地域のことなのかは不明とか)、「苣」は「葉」を意味しているそうです。ですから、「萵苣」は「萵という国からきた葉物」という意味になります。中国では「ワキョ」と読みますが、日本では「ちさ」と読みます。実は、レタスの和名の一つなのです。レタスを収穫するとき、茎の部分から粘りのある白い液体が出てきます。これを見て、昔の人は「ちちくさ」と呼んでいて、これが変化して「ちさ」になったのだそうです。ちなみに「チシャ」もレタスの和名の一つです。「萵苣」は、「チシャ」とも呼びます。
私は以前、仕事の関係で伝統芸能の一端をかじったこともありますが、「ちさの木」、つまり「萵苣の木」と「伽羅先代萩」の関係までは知りませんでした。
「チサノキ」「萵苣の木」と聞いて「伽羅先代萩」を連想する人がいたとしたら、それはかなりの"歌舞伎通"ということになるでしょう。
今回は、ストーリーの細かい点までは書ききれませんでしたが、とにかく見どころいっぱいの名作ですから、興味がある方はぜひ研究してみてください。
ここまでで、1000文字を超す長文になってしまいました。
ここまでの話も面白いのですが、なぜ、こんな話題を取り上げたのかというと…。
実は、「チサノキ」は北高上緑地(日進市)に自生しているからです。
きっと皆さんも、目にしているはずです。
しかも、ちょうど今、花が少ない端境期の北高上緑地にあって、唯一、満開となっているのです。
実は、「チサノキ」というのは、ある木の別名なのです。
では、何の木かと言えば…。
答えは、「エゴノキ」です。
まさに、「へぇ~、そうなんだ!」ですね。
ところで、和名「エゴノキ」の由来は?
果皮には10%ものエゴサポニンが含まれ、果実をかじると喉や舌を刺激して「えぐい(えごい)」ことに由来するのだそうです。また、枝にたわわに垂れ下がった実を、動物の乳房に例えて「乳成り」が「チシャ」に転訛し、別名「チシャノキ」とも呼ばれています。
「万葉集」の大伴家持の長歌の一部にも「知左能花(ちさのはな)」として「ちさ」の名で登場しています。
株立ち樹形になることが多く、その根株からたくさんの萌芽枝が発生する様子(子沢山)から、九州地方ではコヤス(子安)、コヤスノキと呼ばれているそうです。
もともと日本に自生する植物で、明治時代(?)に英国に輸出されたと聞いています。かわいらしい白い花が大人気となり「Japanese Snowbell(雪の鐘)」という素敵な名前が付けられました。
それに対し、鈴なりになる様子から「エゴノキ」を略して「エゴの花が枝もたわわに…」などと表現したら、かわいらしい花に申し訳ない気がします。「エゴ」というと、「egoism」を連想してしまいますから…。
夏、灰白色の実がサクランボのように多数垂れ下がります。果皮のエゴサポニンは界面活性作用があり、泡立ちが良いそうです。その果皮をすりつぶして、水に入れて振ると白濁して泡立ち、石鹸水になります。かつては実際に石鹸の代わりに使われたことから、別名セッケンノキ(福井、大分、鹿児島)、シャボンノキ(福島)、シャボンダマ(茨木、千葉)、サボン(石川)などと呼ばれているようです。
ほかに、ロクロギなど地方名が多いのも、この木の特徴。昔から人々の生活と深く関わってきたことを物語っています。ロクロギ(轆轤木=ろくろぎ)については、昔、この木の材をロクロで細工して玩具などを作ったところからついた名だそうです。
この実についても面白い話がありそうなので、ちょっと勉強してみます。ブログをupするのは秋の予定です。
参考までに、前に書いた「レタス」とは別に、ややこしい話がもう一つあります。エゴノキのことを「チサノキ」ではなく「チシャノキ」と呼ぶこともあると紹介しましたが、実は「萵苣の木」と書いて「チサノキ」ではなく「チシャノキ」と呼ぶこともあります。これも「エゴノキ」の別名の一つですが、もう一つ、ムラサキ科の落葉高木のことでもあります。この木は西日本の低山に自生していて、樹皮は紫色を帯び、葉はカキに似ています。初夏に白色の小花が多数密集して咲きますが、花の形や趣はエゴノキとは全く異なります。
伝統芸能と結びついている樹木を取り上げるのは、「テイカカズラ」に次いで2件目。前回も、かなり時間をかけて調べました。今回も頭が混乱して大変でしたが、面白かったですね。
参考までに、「テイカカズラ」へのリンクを貼っておきました。ご一読ください。
miffy17s.hatenablog.com
さて、いろいろ調べて、今回も多くのことを知りました。まさに《へぇ~、そうなんだぁ!》と、驚くことばかり。知らないことだらけで恥ずかしくなります。
駆け出し里山逍遥人こと「里山のぽんぽこりん」の勉強は、まだまだ続きます。
参考記事を張り付けておきました。
miffy17s.hatenablog.com
【出典、参考webサイト】
・フリー百科事典「Wikipedia」/エゴノキ/沈香/伽羅先代萩
・森と水の郷あきた(あきた森づくり活動サポートセンター総合情報サイト)/樹木シリーズ23 エゴノキ
・歌舞伎公式総合サイト・歌舞伎美人(かぶきびと)/伽羅
・映画は時代を映す鏡/題名の意味とは? 「伽羅先代萩」舞台を楽しむ
・ボタニックガーデン/植物図鑑/せんだいはぎ(先代萩)
・日本文化の入り口マガジン 和樂web/江戸時代にもキャリアウーマンがいた? 歌舞伎の大役、政岡とは何者ぞ
・株式会社イヤホンガイド/伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
・デジタル大辞泉(小学館)/萵苣の木(ちしゃのき)の意味
・よっさんのブログ/エゴノキ(ちさのき)
・善福寺公園めぐり/エゴノキと「伽羅先代萩」
・情報史料学研究所ブログ/【徒然・ちょっとコラム】エゴノキ・ちさのき…伊達騒動
・歌舞伎演目案内/伽羅先代萩
・季節の花300/エゴノキ
・lamire/萵苣