里山って いいな

里山・低山の魅力を伝えていきたいと思います

「山笑う」?! 「山が笑う」って、一体どういうことなのでしょう?! 笑ってごまかさずに、きちんと調べてみました。その結果は…。

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 「山笑う」―。
 青空がすっきりと広がった31日、日進市の北高上緑地駐車場に車を止め、北側の斜面に広がる里山の樹々を見上げた時、ふと、この言葉を思い出しました。
 もう半世紀近くも山登りをしているので、初夏になるたびに、出かけた先の山の中で、この言葉が表現する(と思っていた)光景に出会ったものです。
 最近は登山から遠ざかっているため、しばらく「笑う」山には接していなかったのですが、今日は何と、標高100㍍にも満たない里山で、ふいに「笑う」山に出会うことができたように思いました。
 昨日に比べると、黄砂の影響が和らぎ、きれいな青空が広がったせいもあるのでしょうが、文字通り、笑う山の中に身を置くような浮き浮きとした気分を味わいました。

 f:id:miffy17s:20210331170809j:plain:right:w350ところで、随分前から接してきたこの言葉。きちんとしたことも知らずに、適当に使ってきたような気がします。そもそも、どのような意味なのでしょうか。そして、どのようにした生れたのでしょうか。気になって、調べてみました。

 まず、その意味から。
 「春になり、新芽が出て花が咲き始め、山が色とりどりに変ってきた時の様子」
 「春の山の草木が一斉に若芽を吹いて、明るい感じになる様子」
 「新しい草花が芽吹いてきてそれに春の陽が当たり、山全体にのどかで明るい感じがする春の山の様子」
 …などと説明されています。似たり寄ったりで、キーワードもほぼ同じです。
 f:id:miffy17s:20210331170920j:plain:left:w350私は今まで「山笑う」と言えば「初夏」をイメージしていました。「新芽」の時期というよりは、季節がもう少し進んで、「新緑」がさわやかな5月ごろと勝手に決め込んでいたのです。
 里山や低山に傾斜している昨今と違って、3000㍍峰のピークだけをひたすら狙っていた若いころには、「花」とか「のどか」といった感性がほとんどなかったからなのだと思います。
 まあ、5月も春の一部でしょうから、間違いではないのかもしれませんが、実際はもう少しさかのぼって桜が咲くころのイメージで使われているような感じがします。 
 
 f:id:miffy17s:20210331171026j:plain:right:w350この「山笑う」という擬人化した面白い表現、一体、どこの誰が発した言葉なのでしょうか。きっと、センスがいい人のような気がします。
 どの資料を見ても答は同じで、「北宋の画家・郭煕(かくき、1023年?―1085年?)」ということのようです。
 ですが、出典については微妙に食い違っています。いろいろ調べた結果、どうやら次のようなことが分かってきました。
 日本で知られているのは、山水に関するさまざまな画論や名文などを集めた文集「臥遊録(がゆうろく)」。「臥游録」と表記するのが正確かもしれません。この「臥遊録」の中で郭煕の言葉が紹介されているようです。
 f:id:miffy17s:20210331171116j:plain:left:w350「臥遊録」の著者は郭煕自身という説明をするwebサイトもありますが、これはどうも違うようです。
 国立国会図書館が全国の図書館などと協同で構築している調べ物のためのデータベース「レファレンス共同データベース」の「レファレンス事例詳細」によると、「臥遊録」の著者は「呂祖謙(りょ そけん、1137年-1181年)となっています。
 ただ、「郭煕の言葉が最初に出てくる書物を出典として挙げるとすれば、(郭煕の)子の郭思が編集した『林泉高致集』とすべきではないか」と指摘する人も何人かいます。
 f:id:miffy17s:20210331171220j:plain:right:w350それはともかく、これらの中で紹介されている郭煕の言葉とは…。
「春山淡冶にして笑うが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡として眠るが如く」
 表記も含めて分かりやすく書くと、このようになります。
 「淡治(たんや)」は、原文では「澹冶」となっているようで、どちらも「うっすらと艶めくこと」だとか。
 そして、これが俳句などで季語として使われるようになったのだそうです。
 つまり…
 「山笑(わら)う」……… 春の季語
 「山滴(したた)る」……夏の季語
 「山粧(よそお)う」……秋の季語
 「山眠(ねむ)る」……… 冬の季語
ということになります。

 「この言葉、気に入った」という方もいらっしゃるかもしれませんね。俳句だけでなく、時候の挨拶としても使えますので、よろしければどうぞ。
 「拝啓 山笑う候、〇〇様におかれましては…」といった具合。
 「いかにも固い」と思われる方は、「山笑う」を「山笑のみぎり」「山笑の折」と言い換える手も。
 それでも「まだ表現が固くて使えない」という方は、この際「山笑う」を外して、次のようにすればいいかも。ある専門家のアドバイスを紹介しておきます。
 「草花の芽吹きに心浮き立つ季節がやってきました。皆様には健やかにお過ごしのことと…」
 ただ、「山笑う候」は、暦の上の春の半ばの時候の挨拶。あまり遅いと、ちょっとイメージがずれてしまうかもしれません。
 一部には「3月の時候の挨拶(書き出し)」とするサイトもあります。
 「わー、大変だ! 3月は今日で終わりだー!」
 今回のブログ、もう少し早く書けばよかったですね。すみません。

               ◇
 f:id:miffy17s:20210331173741j:plain:right:w100さて、いろいろ調べて、今回も多くのことを知りました。まさに《へぇ~、そうなんだぁ!》と、驚くことばかり。知らないことだらけで恥ずかしくなります。 
 駆け出し里山逍遥人こと「里山のぽんぽこりん」の勉強は、まだまだ続きます。

【出典、参考webサイト】
①フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」/山笑う
②haconiwa/「山が笑う」という言葉を、知っていますか?
③笑える国語辞典/山笑う
小学館デジタル大辞泉/山(やま)笑(わら)う
⑤季語・季題辞典/山笑う
Wiktionary/山笑う(やまわらう)
⑦季節お役立ち情報局/山笑う・山滴る山粧う・山眠るの意味。季語の時期や俳句は?
⑧小さな資料室/資料317 山笑う・山粧う・山眠る(『改正月令博物筌』・『臥遊録』より)
⑨レファレンス共同データベース/質問「『臥遊録』の著者、年代、内容などが知りたい」と回答
⑩四季おりおり快適生活/山笑う候が使える時期! 意味・読み方・お役立ち文例
⑪トレンド豆知識/山笑うとは? 意味や由来! いつの時期で季語としての使い方は?
⑫年賀状・暑中見舞いドットコム/時候のあいさつ(書き出し)と結びの文例