里山って いいな

里山・低山の魅力を伝えていきたいと思います

「樹名板」考・その弐。スペースは限られています。誰のために、どんな情報を盛り込めばいいのでしょうか。悩みは尽きません。

 里山や雑木林、公園などを散策していると、いろいろな「樹名板」に出合います。材質やデザイン、文字などはさまざまで、見ているだけで楽しいのですが、私が気になるのは、何といっても内容です。

 昨年夏ごろ、4カ月ほどかけ、日進市・北高上緑地内の古くなった「樹名板」を付け替えたり、新たに設置したりした担当者としては当然のことです。というのは、限られたスペースの中で、どんな情報を盛り込めばいいのか、数か月の間、毎日毎日考え続けていたのですから。

 f:id:miffy17s:20210223183907j:plain:right:w300日進里山リーダー会の先輩会員が以前からCD/DVDレーベル印刷ソフトを活用して作っていたので、これを踏襲しました。したがって、用紙サイズは約12㌢四方。ここに、さまざまな情報を書き込みます。

 ①和名。漢字表記。科や属②落葉樹か常緑樹か。分布③葉の特徴④花が咲く時期。その特徴⑤実の特徴⑥名前の由来や雑学的な話題⑦類似種との違い、見分け方…などなど。

 古くなった「樹名板」を交換する場合はいいのですが、新しく作る場合は大変です。図鑑を読んだり、インターネットで調べたりしますが、ちょっとしたことの確認や雑学的な面白い情報探しなどを含め、1本の樹木だけで少なくても4~5日、場合によっては1週間以上を要することもあります。この間に集積した情報は膨大で、いかに取捨選択して12㌢四方のスペースに収めるかに苦労します。

 中には、特徴や名前の由来が面白くて、それだけでも収まり切れないといった例もあります。でも、基本的な情報を捨てて、面白い話ばかり書くというわけにもいきません。

 私は特段ルールのようなものは決めてはいません。しいて言えば、無味乾燥な内容ではなく、「へぇー、そうだったんだ」と思えるような情報も盛り込みたいと考えています。

 「そんなものは要らん。名前だけでいい」という人がいるかもしれません。まあ、そういう人は例外と考えます。

 では、どんな情報を盛り込めばいいのでしょうか。樹木に詳しくない普通の人、特に私のような素人に近い"里山初心者"の場合、個人個人で関心の対象が何なのかよく分からないケースもあります。

 「花が好きなので、花についてできるだけ詳しく」という人もいれば、「雄しべがどうのこうの、雌雄異株がどうのこうのというよりも、その木がどんな"戦略"で森の中での競争を生き抜いているのか」とか、「名前の由来など、調べてもなかなか見つからないような面白い情報が欲しい」という人もいるでしょう。

 私の場合、基準は一つ。自分が読んでみて「これなら面白い」と感じ、しっかりと印象に残るものを目指しています。

f:id:miffy17s:20210223121402j:plain:left:w280f:id:miffy17s:20210223205045j:plain:left:w330 例えば、「漢字表記」について例を挙げて考えてみましょう。

 まず、「シャシャンボ」(写真㊧)。片仮名表記だけだと、「ふーん」で終わってしまうでしょう。せいぜい「変わった名前だな」ぐらい。ところが「シャシャンボ(小小坊)」と漢字表記を付け加えるだけで、その情報が持つ意味が大きくなります。小さな果実が並んで実る様(写真㊧)を「小小坊(シャシャンボ)」と表現して名付けたのだろうと想像がつきます。

f:id:miffy17s:20210223210550j:plain:right:w330f:id:miffy17s:20210223213454j:plain:right:w250  次は「リョウブ」(写真㊨)。これも、片仮名表記だけだと「変わった名前だな」ぐらいで終わってしまいますが、漢字表記も含めて「リョウブ(令法)」とすると、《何かの法令に関係があるのかな?》とピンとくる人もいるでしょう。

 新芽(若葉、写真㊨)は食用になります。リョウブという名前は、飢餓に備えて貯蔵と採取を「令法(りょうぼう)」によって命じたという歴史に由来していると言われています(別の説もあります)。

 f:id:miffy17s:20210223114250j:plain:left:h350もう一つは「イソノキ」(写真㊧)。片仮名表記だけだと、それだけの話になってしまいますが、「イソノキ(磯の木)」と表記すると、《里山の中なのに磯とは…?  なぜ?》という疑問に結びつき、新たな興味がわいてくると思います。

 参考までに、調べてみました。「『牧野新日本植物図鑑』の改訂増補版には『イソノキの語源は不明』と書いてあるそうだが、いろいろ調べているうちにこんな説が見つかった」という話がWEBサイト「ジュラのお散歩花日記(2011年7月18日付)」に掲載されているのを見つけました。興味深いので引用させていただきました。

昔 イネを束ねる時に使うワラを「結いそ(ゆいそ)」と呼び この「イソノキ」の枝も しなやかなので「結いそ」として使われた
だから当初は「結いその木(ユイソノキ)」と呼ばれていたものが いつしか「ユ」がとれて「イソノキ」になったと言うもの
「磯」の字は後から音だけで当てはめたということらしい

 「なるほど。納得!」、ですね。

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 片仮名表記だけの樹名板もシンプルで捨てがたく、とりあえず名前さえ分かれば家に帰ってからいろいろ調べるとっかかりになるわけですから、「それでいい」という意見もあるでしょう。でも、果たして、片仮名表記だけで"新たな興味"がわいてくる可能性があるでしょうか。

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 自然の中で出会ったその時、その場で、漢字表記に合わせて名前の面白い由来などが分かれば、その木との出会いがとても印象的なものになるでしょう。たった2、3文字の漢字表記を付け加えるだけでも、世界がだいぶ変わってくるような感じがします。だから私は、「漢字表記は、ぜひ盛り込みたい情報の一つ」だと思っています。

f:id:miffy17s:20210223163126j:plain:right:w300f:id:miffy17s:20210223163104j:plain:left:w300 このように考えていくと、すべての情報が大切に思えてきて、取捨選択ができなくなってしまいます。
 
 私はまだまだ駆け出しの里山逍遥人なので、勉強して知り得たことは皆さんにできる限りたくさんおすそ分けしたくて、「樹名板」が情報過多になる傾向があります(写真㊤㊧=クリックすると拡大表示されます)。

 「細かい情報をこんなに盛り込んで、誰が読むの? もう少し簡潔にした方がいいんじゃないかな」とアドバイスしてくれる先輩もいます。ごもっともです。

 「漢字表記」は一つの例ですが、「樹名板」を作るにあたっては、「何を削って何を盛り込むか」が大切な要素になってきます。それを読む人は不特定多数(「少数」であっても)なので、おそらく評価はつけられないと思います。

 こういう作業をする時は、ベテランの先輩に意見を求めがちですが、それと同時に、よく里山に散策に来ていて、「この木、なんの木ですか?」と尋ねるような方にいろいろ意見、要望を聞く方が正解が得られるような気がしています。

 試行錯誤は、まだまだ続きます。